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ロケットエンジンの種類|液体・固体とエンジンサイクルの基本

2026-08-28入門

#ロケット#エンジン#入門

ロケットが空へ昇っていく力は、すべてエンジンから生まれています。しかし一口に「ロケットエンジン」と言っても、燃やす燃料の種類や、内部の仕組みには大きなバリエーションがあります。この記事では、液体燃料と固体燃料の違いから、液体エンジンの中でも性格が分かれる「エンジンサイクル」まで、実際のロケットの例を交えて基本を整理します。

この記事で分かること

  • 固体燃料エンジンは構造がシンプルで信頼性が高い一方、いったん着火すると出力の調整や途中停止ができないこと
  • 液体燃料エンジンはターボポンプなど複雑な機構が必要になる分、推力の調整・再着火ができ、効率(比推力)も高いこと
  • 液体エンジンには『ガスジェネレーター』『二段燃焼』『エキスパンダー』という代表的なサイクルがあり、効率・コスト・複雑さのトレードオフが異なること
  • SpaceXのMerlin・Raptorや、日本のH3ロケットのLE-9・LE-5Bなど、実際のロケットで採用されているサイクルには明確な設計思想の違いがあること

対象読者:ロケットエンジンのしくみに興味がある方

執筆:ゆるふわ宇宙編集部 最終更新日:2026年8月28日

固体燃料 vs 液体燃料

ロケットエンジンは、まず使う推進剤(燃料と、燃焼に必要な酸化剤)の状態によって、大きく2種類に分かれます。

🧱

固体燃料ロケット

  • 燃料と酸化剤をあらかじめ混ぜて固めた『推進薬』をケースに詰めるだけ
  • 構造がシンプルで部品点数が少なく、信頼性が高い
  • いったん着火すると推力の調整や途中停止ができない
  • 長期間の保管や即応性に優れ、補助ブースターやミサイルに多用される
  • 例:H3ロケットの補助ブースター『SRB-3』、イプシロンロケット
VS
💧

液体燃料ロケット

  • 燃料と酸化剤を別々のタンクに液体で保管し、ポンプで燃焼室へ送り込む
  • バルブで推力を調整でき、エンジンの停止・再着火もできる
  • 配管やポンプなど機構が複雑で、開発コスト・難易度が高い
  • 比推力(燃費)が高く、主力の第1段・上段エンジンに広く採用される
  • 例:ファルコン9のMerlinエンジン、H3の本体エンジン

比推力(Isp)ひすいりょく

ロケットエンジンの燃費のよさを表す指標です。同じ量の推進剤で、どれだけ長く・強く推力を出し続けられるかを示します。一般に液体燃料エンジン、特に液体水素を使うエンジンは比推力が高く、固体燃料エンジンは比推力では劣るものの、構造のシンプルさと信頼性で選ばれます。

液体エンジンの心臓部:ターボポンプとエンジンサイクル

液体燃料エンジンでは、燃料と酸化剤を高い圧力で燃焼室に送り込む「ターボポンプ」が欠かせません。このポンプを回すタービンを動かすために、推進剤の一部を燃やして高温高圧のガスを作ります。このガスをどう扱うかによって、エンジンの性格——効率・コスト・複雑さのバランス——が大きく変わります。この違いを「エンジンサイクル」と呼びます。

ガスジェネレーターサイクル(オープンサイクル)

ガスジェネレーターサイクルガスジェネレーターサイクル

推進剤のごく一部を、燃焼室とは別の小さな燃焼器(ガスジェネレーター)で燃やしてタービンを回し、使い終わったガスはそのまま機体の外へ排出してしまう方式です。排気を主燃焼に使わないぶん、そのガス分のエネルギーは推力に変換されず、理論上の効率はやや低下します。ただし構造がシンプルで開発しやすく、コストを抑えやすいという利点があります。SpaceXのMerlinエンジン(ファルコン9、RP-1〈ケロシン〉と液体酸素を使用)が代表例です。

二段燃焼サイクル(クローズドサイクル)

二段燃焼サイクルにだんねんしょうサイクル

タービンを回したあとの高温ガスを外に捨てず、そのまま主燃焼室に送り込んで燃焼に使う方式です。推進剤をほぼ無駄なく使えるため、ガスジェネレーターサイクルより高い効率が得られますが、燃焼室の圧力が高くなりやすく、機構も複雑になるぶん開発コストや難易度は上がります。

💡

さらに進化した『フルフロー二段燃焼サイクル』

二段燃焼サイクルの中でも、燃料リッチと酸化剤リッチの2つのプリバーナー(予燃焼器)を使い、推進剤のほぼ全量をあらかじめガス化してから主燃焼室に送り込む方式が「フルフロー二段燃焼サイクル」です。タービンにかかる熱的な負荷を抑えながら高い効率を実現できますが、実現の難易度は非常に高いとされてきました。SpaceXのRaptorエンジン(スターシップ、メタンと液体酸素を使用)は、このフルフロー二段燃焼サイクルを実用化した世界初のエンジンとして知られています。

エキスパンダーサイクル

エキスパンダーサイクルエキスパンダーサイクル

ガスジェネレーターや二段燃焼サイクルのように専用の予燃焼器で推進剤を燃やすのではなく、燃焼室やノズルを冷却する際に燃料(多くは液体水素)が吸収した熱でガス化させ、そのガスでタービンを回す方式です。加熱したガスをすべて主燃焼室に戻す方式を「クローズド(閉鎖型)」、一部を外に排出する方式を「エキスパンダーブリード」と呼びます。専用の燃焼器が不要なぶん構造がシンプルになる一方、得られる熱量に限りがあるため、大推力のエンジンには不向きとされてきました。

日本のH3ロケットは、この常識に挑む形で開発されました。上段エンジンの「LE-5B」だけでなく、本来なら大推力が求められる第1段の主エンジン「LE-9」にも、あえてエキスパンダーブリードサイクルを採用しています。三菱重工業とJAXAは、構造をシンプルに保つことで開発・製造コストと信頼性を優先する設計思想のもと、この難しい選択に取り組みました。

実際のロケットで見るサイクルの違い

エンジン搭載ロケット推進剤サイクル
Merlinファルコン9(第1段)RP-1(ケロシン)/ 液体酸素ガスジェネレーター
Raptorスターシップメタン / 液体酸素フルフロー二段燃焼
LE-9H3(第1段)液体水素 / 液体酸素エキスパンダーブリード
LE-5BH3(第2段)液体水素 / 液体酸素エキスパンダーブリード
🧱

2種類

推進剤の大分類(固体・液体)

⚙️

3種類

代表的な液体エンジンサイクル

🚀

世界初

Raptorが実用化したフルフロー二段燃焼サイクル

🇯🇵

第1段に採用

H3のLE-9が挑んだ異例のエキスパンダーブリード

トレードオフのまとめ

🌱

『どれが一番優れているか』ではなく『何を優先するか』

ガスジェネレーターはシンプルさとコスト、二段燃焼(特にフルフロー)は効率と再使用性、エキスパンダーは構造のシンプルさと信頼性——それぞれのサイクルには明確な優先順位の違いがあります。Merlinのようなガスジェネレーターサイクルの使い捨て前提エンジンから、Raptorのような再使用を前提とした高効率エンジンへの流れは、ロケット全体が「使い切り」から「再使用」へ向かっている流れとも重なっています。再使用ロケットについては再使用ロケットの記事もあわせてご覧ください。

まとめ

  • 固体燃料エンジンはシンプルで信頼性が高いが、推力の調整や途中停止ができない
  • 液体燃料エンジンは構造が複雑になる一方、推力調整・再着火ができ、比推力(燃費)も高い
  • 液体エンジンには、ガスジェネレーター(シンプル・低コスト)、二段燃焼(高効率・高複雑さ)、エキスパンダー(シンプルだが大推力に不向き)という代表的なサイクルがある
  • SpaceXのRaptorはフルフロー二段燃焼サイクルを世界で初めて実用化した
  • H3ロケットのLE-9は、通常は大推力に不向きとされるエキスパンダーブリードサイクルを、あえて第1段主エンジンに採用した異例の設計

もう少し詳しく(背景)

エンジンサイクルの選択は、ロケット全体の設計思想と深く結びついています。エンジンの性能(比推力や推力)は、最終的に到達できる速度を左右するロケット方程式の中核的な変数であり、その計算についてはロケット方程式の記事で詳しく扱っています1

H3ロケットのLE-9がエキスパンダーブリードサイクルを選んだ背景には、前身のH-IIA・H-IIBで採用されていた二段燃焼サイクルのLE-7Aと比べ、部品点数や製造工程を減らしてコストと信頼性を優先したいという狙いがあったとされます2。大推力エンジンでは異例の選択であるため、燃焼安定性の確保など開発段階では技術的な課題にも直面しましたが、実用化にこぎつけています。

ロケット全体の基礎知識はロケットの基礎知識、打ち上げの流れはロケットの打ち上げプロセス、日本のロケット開発の全体像は日本の宇宙開発の記事もあわせてご覧ください。

参考資料・出典

ゆるふわポータルでは、一次情報・公的資料にもとづき、専門用語をできるだけやさしく翻訳することを心がけています。内容に誤りや古い情報がある場合は、お問い合わせからご連絡ください。

執筆:ゆるふわ宇宙編集部 最終更新日:2026年8月28日

Footnotes

  1. ロケットの到達速度は、エンジンの比推力(燃費)と推進剤質量の割合によって決まる「ツィオルコフスキーのロケット方程式」で表されます。エンジンサイクルの違いによる比推力の差は、この方程式を通じて最終的な性能差に直結します。

  2. LE-9は三菱重工業とJAXAが共同開発したH3ロケットの第1段主エンジンです。開発初期には燃焼室内の圧力振動(燃焼不安定性)などの課題が明らかになり、設計変更を重ねて信頼性を高めた経緯が、三菱重工業の技術資料などで報告されています。

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