
宇宙飛行士になるには?JAXA宇宙飛行士選抜の道をやさしく解説
2026-08-13 ・ 入門
「将来の夢は宇宙飛行士」——小さいころにそう思ったことがある人は多いはずです。でも大人になるにつれて「本当になれるの?」「どうやったらなれるの?」という疑問にぶつかります。結論から言うと、宇宙飛行士は日本でもっとも狭き門の仕事のひとつです。この記事では、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙飛行士候補者選抜の実際の流れと、たとえ宇宙飛行士になれなくても宇宙に関わる仕事に就く現実的な道を、数字を交えてやさしく紹介します。
この記事で分かること
- JAXAの最新選抜(2021〜2023年度)は応募者4,127人から2人が選ばれた超難関だったこと
- 2021年度の募集からは理系の大学卒業資格が必須ではなくなったこと
- 宇宙飛行士になれなくても、エンジニアや研究者、管制官など宇宙業界で活躍する道は複数あること
対象読者:宇宙飛行士を目指す学生・進路を考えている方
執筆:ゆるふわ宇宙編集部 最終更新日:2026年8月13日
宇宙飛行士への道は「超」がつく狭き門
JAXAが宇宙飛行士候補者を募集するのは、数年に一度あるかないかのペースです。実際、2021年度の募集は2008年度の募集から数えて13年ぶりでした。つまり、応募のチャンス自体がとても少ないのです。しかも、募集がかかったからといって誰でも合格できるわけではありません。次の章で見るように、その倍率は想像を超えるレベルになっています。
まずは「そもそもどんな流れで選ばれるのか」を見てみましょう。
JAXA宇宙飛行士候補者選抜の流れ
2021〜2023年度に実施された選抜(JAXA有人宇宙技術部門が公表した実績)は、次のような段階を経て進みました。
JAXA宇宙飛行士候補者選抜(2021〜2023年度)のステップ
書類選考
応募者4,127人のうち2,266人が通過。学歴・職歴・英語力などを確認
第0次選抜
英語・一般教養・理数系の筆記試験。205人が通過
第1次選抜
詳しい医学検査とプレゼンテーション審査。50人が通過
第2次選抜
医学的精密検査・心理適性検査・面接。10人が通過
最終選抜
合宿形式での心理検査・実技試験を経て、ここから2人が選ばれる
最終的に選ばれたのは、世界銀行で防災の専門家として働いていた諏訪理さんと、日本赤十字社医療センターの外科医だった米田あゆさんの2人でした。2人とも、2023年4月にJAXA職員として働き始めています。
「アルテミス世代」の宇宙飛行士
諏訪さんと米田さんは、月への有人探査を目指す国際プロジェクト「アルテミス計画」の時代に活動することから「アルテミス世代」の宇宙飛行士とも呼ばれています。
数字で見る宇宙飛行士選抜の「狭き門」度
具体的な数字を並べてみると、その難易度がよく分かります。
4,127人
2021年度選抜への応募者数
2人
最終合格者数(諏訪理さん・米田あゆさん)
約2,064倍
応募から最終合格までの倍率
13年ぶり
前回(2008年度)選抜からの期間
倍率だけを見ると気が遠くなりそうですが、注目したいのは「応募条件」が以前より広がったという事実です。
応募条件は「学歴不問」に変わった
2008年度までの選抜では、大学の理系学部を卒業していることが必須条件でした。ところが2021年度の募集からは、この理系大学卒業という条件が撤廃されました。かわりに求められるのは、次のような条件です。
- 日本国籍を持っていること
- 高等学校卒業程度の学力と、英語力・一般教養があること
- 3年以上の実務経験(または大学院での研究経験と実務経験の組み合わせ)があること
- 身長が149.5cm〜190.5cmの範囲であること
- 良好な視力・聴力などの健康状態
- 75m以上を泳げる遊泳能力があること
理系出身でなくても目指せる
「宇宙飛行士=理系の天才」というイメージを持っている人も多いですが、実際に選ばれた米田あゆさんは医師、諏訪理さんは国際開発の専門家です。学部の専攻よりも、専門分野での実務経験や英語でのコミュニケーション力、健康状態などが総合的に評価されます。
実際にこれまでのJAXA宇宙飛行士を見渡すと、バックグラウンドはさまざまです。
研究者・医師タイプ
- 米田あゆさん(外科医)
- 向井千秋さん(外科医、日本人女性初の宇宙飛行士)
- 金井宣茂さん(医師)
エンジニア・パイロットタイプ
- 諏訪理さん(元世界銀行、地球科学の学位)
- 若田光一さん(航空宇宙工学エンジニア)
- 野口聡一さん(航空宇宙工学エンジニア)
選ばれてから:宇宙飛行士候補者の訓練
選抜に合格しても、その時点ではまだ「候補者」です。正式な宇宙飛行士として認定されるには、約2年間の基礎訓練を修了する必要があります。諏訪さんと米田さんの場合は、2023年2月の合格発表から訓練を積み、2024年10月に正式にJAXA宇宙飛行士として認定されました。
基礎訓練では、次のような幅広い内容が扱われます。
- 航空宇宙工学など宇宙開発に関わる基礎知識の習得
- 国際宇宙ステーション(ISS)や日本実験棟「きぼう」の運用に関する知識
- 宇宙での実験に必要な科学知識(ライフサイエンス、材料科学、地球観測など)
- 健康管理・体力訓練、写真撮影、航空機操縦、語学(英語・ロシア語など)
- サバイバル訓練やスキューバダイビングなどの実技
フライトディレクタ(Flight Director)
宇宙飛行士本人だけでなく、地上からミッション全体を指揮する管制官の責任者も宇宙開発を支える重要な仕事です。JAXAの筑波宇宙センターにも「きぼう」運用を統括するフライトディレクタが常駐し、宇宙飛行士と地上をつなぐ役割を担っています。
認定後も宇宙飛行士は実際のミッションに搭乗するまでさらに訓練を重ねます。諏訪さんは2027年ごろのISS長期滞在ミッションに向けて準備を進めていると報じられています。
宇宙飛行士になれなくても、宇宙に関わる仕事はたくさんある
ここまで見てきた通り、宇宙飛行士は倍率2,000倍を超える超難関です。でも「宇宙に関わる仕事」という意味では、宇宙飛行士はごく一部にすぎません。宇宙産業を支えているのは、実ははるかに多くのエンジニアや研究者、ビジネス関係者です。
- ロケット・衛星エンジニア:機体や人工衛星の設計・開発・製造に携わる仕事。JAXAだけでなく民間ロケット企業でも需要が拡大しています
- ミッション運用・管制官:打ち上げ後の運用やISSとの通信を担当する仕事。宇宙飛行士のすぐそばで宇宙開発を支えます
- 研究者:無重力環境を利用した実験や、月・火星探査に関する研究など、大学や研究機関で活躍する道
- 宇宙ビジネス関連職:宇宙ビジネスの企画・資金調達・法務など、非エンジニア職でも宇宙産業を支えられます
- 宇宙旅行・観光関連職:民間宇宙船の運航や宇宙旅行ビジネスに関わる仕事も、今後さらに広がっていく分野です
民間宇宙飛行士という新しい道も
近年は国の機関を経由せず、民間企業のロケットで宇宙に行く「民間宇宙飛行士」という道も出てきています。ただし現時点では費用や搭乗機会が限られており、JAXAの職業宇宙飛行士とは条件が大きく異なります。
日本の宇宙開発を支えているのは、宇宙飛行士だけではなく、その何百倍もの人数のエンジニアや研究者、ビジネスパーソンたちです。「宇宙飛行士になれなかったから宇宙に関わる夢は終わり」ではなく、「宇宙飛行士以外にも宇宙に関わる道はたくさんある」と考えるほうが、実は現実的で夢が広がる考え方かもしれません。
まとめ
- JAXAの宇宙飛行士候補者選抜は数年〜十数年に一度しか実施されず、2021〜2023年度は応募者4,127人から2人だけが選ばれる超難関だった
- 選抜は書類選考→筆記試験→医学検査→心理・面接→最終選抜という段階を経て進む
- 2021年度の募集からは理系大学卒業という条件が撤廃され、実務経験や健康状態などが総合的に評価されるようになった
- 合格後も約2年間の基礎訓練を経てはじめて正式な宇宙飛行士として認定される
- 宇宙飛行士になれなくても、エンジニア・研究者・管制官・宇宙ビジネスなど宇宙産業を支える仕事は数多くある
もう少し詳しく(背景)
JAXAの宇宙飛行士選抜は、1985年の第1次選抜以来、これまでに数回しか実施されていません1。その背景には、日本が参加する宇宙ミッション(ISS運用など)の規模に対して、必要な宇宙飛行士の人数がもともと少ないという事情があります。2021年度選抜が「13年ぶり」となった理由のひとつも、2020年代に本格化するアルテミス計画2によって、月やその先を目指す新しい世代の宇宙飛行士が必要になったためだとされています。
こうした背景を知ると、宇宙とは何かという基礎から、日本の宇宙開発の歩みまで理解しておくことが、宇宙飛行士を目指すうえでも、宇宙業界で働くうえでも役立つことが分かります。
参考資料・出典
- JAXA|JAXA宇宙飛行士候補者(2021~2022年度 募集・選抜)の決定について応募者数4,127人や選抜段階など、選抜結果に関するJAXA公式発表
- JAXA Finalizes the Selection of Astronaut Candidates from FY2021-2022 Applicant Pool選抜結果の英語版プレスリリース。合格者2人の経歴を掲載
- JAXA、13年ぶりの選抜で宇宙飛行士候補者2名決定(レスポンス)選抜の背景や倍率について報じたニュース記事
- JAXA recruits new astronauts, no degree required(The Register)2021年度募集での応募条件の変更(学歴要件の撤廃)について報じた記事
- JAXA 有人宇宙技術部門|JAXA宇宙飛行士候補者の基礎訓練宇宙飛行士候補者の基礎訓練内容に関するJAXA公式ページ
- 宇宙飛行士候補者2名が基礎訓練を公開し、近況を報告(JAXA)諏訪理さん・米田あゆさんの宇宙飛行士認定(2024年10月)に関する記者会見の報告
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執筆:ゆるふわ宇宙編集部 最終更新日:2026年8月13日