
民間宇宙ステーションの時代へ|ISS引退後の宇宙開発をやさしく解説
2026-08-13 ・ 入門
1998年から宇宙に浮かび続けている国際宇宙ステーション(ISS)。実はこのISS、2030年ごろに役目を終えて地球に落とされる計画が進んでいます。「宇宙に人が住み、働く場所」がなくなるわけではありません。かわりに、企業が所有・運営する「民間宇宙ステーション」への引っ越しが、いままさに進行中なのです。
この記事で分かること
- ISSは2030年ごろの運用終了・デオービット(落下処分)が計画されていること
- NASAは「商業LEO拠点(CLD)」構想のもと、民間企業に宇宙ステーション開発を委託していること
- Axiom Space・Orbital Reef・Vast・Starlabなど複数の民間計画が同時に進行していること
- 日本もJAXAや三井物産などが「きぼう」後継機の検討に加わっていること
対象読者:宇宙ビジネスに関心がある方
執筆:ゆるふわ宇宙編集部 最終更新日:2026年8月13日
ISSはなぜ「引退」するのか
ISSは日本・アメリカ・ロシア・欧州・カナダが共同で運用してきた、人類史上最大の有人宇宙施設です。1998年の打ち上げから稼働30年を超え、ロシア側モジュールの微細な空気漏れなど老朽化のサインも見え始めています。
NASAは、ISSを安全に太平洋上へ落とす(デオービットする)ための専用宇宙船の開発を、2024年にSpaceXへ約8.4億ドルで発注しました。目標時期は2030年ごろです。
同時にNASAは、地球低軌道(LEO)での有人活動そのものをやめるつもりはありません。むしろ、月・火星を目指す「アルテミス計画」に予算と人手を集中させるため、地球低軌道の運用は民間企業に任せ、NASA自身は「利用者(顧客)」として乗り換える方針を掲げています。これが「商業LEO拠点(Commercial LEO Destinations、CLD)」構想です。
デオービットって何?
軌道上の物体をわざとブレーキさせて高度を落とし、大気圏に再突入させて処分することです。ISSのように巨大な構造物は、無人の海域(南太平洋の「ポイント・ネモ」付近)に着水させる形で安全に処分される計画です。
ISSモデル vs 民間宇宙ステーションモデル
同じ「宇宙に人が住む場所」でも、運営の仕組みは大きく変わります。
ISS(国際協力モデル)
- 各国政府(宇宙機関)が共同で建設・所有
- 費用は各国の税金(政府予算)で負担
- 目的は科学研究と国際協力の象徴
- 利用枠のスケジュールは政府間で調整
民間宇宙ステーション(商業モデル)
- Axiom SpaceやVastなど民間企業が所有・運営
- NASAは「利用者の一社」として利用料を支払う立場に
- 研究に加え、製造業や宇宙旅行など商業利用も想定
- 複数の企業が競争しながら共存する市場構造
2030年ごろ
NASAが目標とするISS運用終了の時期
約8.4億ドル
ISSデオービット専用機の開発費(SpaceXが受注)
1998年〜
ISSが宇宙で稼働してきた期間
4つ以上
開発が進む主な民間宇宙ステーション計画の数
主なプレイヤーたち
ISSの後を狙う民間宇宙ステーション計画は、ひとつではありません。それぞれ得意分野やスケジュールが異なる複数のプロジェクトが同時に走っています。
Axiom Space(アクシオム・スペース)(アクシオムスペース)
もともとはISSに自社モジュールを接続し、ISS引退の直前に切り離して独立した「Axiom Station」にする計画からスタートした企業です。すでに民間人を乗せた有人ミッションをISSへ何度も送り込んだ実績があり、モジュール製造や打ち上げスケジュールの見直しを重ねながら開発を進めています。
Orbital Reef(オービタル・リーフ)(オービタルリーフ)
Blue OriginとSierra Spaceが中心となり、Boeingやレッドワイヤなどが参加する計画です。「宇宙のビジネスパーク」をコンセプトに掲げ、研究・製造・観光など多目的利用を想定しています。NASAとの設計審査(システム定義レビューなど)を段階的にクリアしながら開発フェーズを進めています。
Vast(ヴァスト)(ヴァスト)
比較的新しいベンチャー企業で、まず単一モジュールの小型ステーション「Haven-1」を先行して打ち上げ、その後より本格的な「Haven-2」でNASAの商業LEO拠点プログラムに参加する二段構えの戦略をとっています。Haven-1の打ち上げ目標は当初2026年とされていましたが、開発の進捗により2027年へと見直されています。
Starlab(スターラボ)(スターラボ)
Voyager Space(旧Nanoracks)とAirbusなどが中心となり、NASAから資金提供を受けて開発を進める計画です。日本からは三井物産が、この米国商業宇宙ステーションに接続する日本実験棟「きぼう」の後継機について、JAXAから概念検討の実施者に選ばれています。
スケジュールのリスクも
複数の計画で打ち上げ延期が発生しており、米政府監査院(GAO)は「ISSの引退時期までに民間ステーションの準備が間に合わない可能性」を指摘しています。ISSと後継ステーションの間に運用の「空白期間」が生じるリスクは、業界全体の重要な課題です。
日本の役割とチャンス
日本はISSでは実験棟「きぼう」を運用し、国際協力の一員として存在感を示してきました。民間宇宙ステーションの時代でも、その関わりは続いています。
- JAXAは2023年、三井物産を「きぼう」後継機(米国商業宇宙ステーション接続型)の概念検討の実施者に選定しました。
- 文部科学省では、民間宇宙ステーションへの移行を見据えてJAXA主体の研究を加速させる方針案も議論されています。
- サンプルリターン(回収カプセル)事業を手がけるElevationSpaceなど、日本のスタートアップもこの検討に参加しています。
これは日本の宇宙関連企業にとって、モジュール製造や実験サービスなどの形で新しい市場に参入できるチャンスでもあります。詳しくは日本の宇宙開発の記事もあわせてご覧ください。
宇宙ビジネスへの意味
ISSから民間宇宙ステーションへの移行は、単なる「施設の建て替え」ではありません。宇宙ビジネスの構造そのものが変わる転換点です。
- NASAは「所有者」から「顧客(アンカーテナント)」に立場を変え、利用料を支払って民間ステーションを使う側になります。
- 研究目的だけでなく、微小重力を使った製造業(微小重力ってなに?)や、民間人が滞在する宇宙旅行(宇宙旅行ビジネス)など、商業利用の幅が広がります。
- 複数のステーションが競争する市場になることで、衛星ビジネスのモデルと同じように、価格やサービスの多様化が進むと期待されています。
まとめ
- ISSは老朽化と予算の都合から、2030年ごろの運用終了(デオービット)が計画されている
- NASAはISS運用から手を引き、民間企業が所有・運営する宇宙ステーションを「利用者」として使う方向へ転換しつつある
- Axiom Space・Orbital Reef・Vast・Starlabなど、複数の民間宇宙ステーション計画が同時進行中
- 打ち上げ延期が相次いでおり、ISS引退との間に「空白期間」が生じるリスクも指摘されている
- 日本もJAXAや三井物産などを通じて「きぼう」後継機の検討に参加し、新しい宇宙ビジネスの機会をうかがっている
もう少し詳しく(背景)
ISSから民間宇宙ステーションへの移行は、NASAの予算戦略とも深く結びついています。NASAは2021年末、商業LEO拠点(CLD)プログラムの第一弾として、Blue Origin・Nanoracks(現Voyager Space)・Northrop Grummanの3社に総額4億ドル超の開発資金を配分しました1。その後、Axiom SpaceのようにCLDとは別枠でISS接続型の開発を進めていた企業や、Vastのように独自資金で先行開発を進めるベンチャーも合流し、現在の「複数計画が並走する」構図ができあがりました。
一方でISS側の処分計画も具体化しています。NASAは2024年、ISSを制御しながら太平洋上へ落とすための専用宇宙船「US Deorbit Vehicle」の開発をSpaceXに発注しました2。ただし米政府監査院(GAO)は2026年の報告書で、民間ステーションの開発遅延がISSの引退時期に間に合わない可能性を指摘しており、地球低軌道での有人活動が一時的に途切れるリスクも議論されています3。
日本国内では、JAXAが2023年に三井物産を「きぼう」後継機の概念検討の実施者として選定し、米国の商業宇宙ステーションに接続する形での参加を模索しています4。宇宙の全体像をまだ押さえていない方は、まず宇宙・航空とは?いちばんやさしい最初の一歩や軌道の種類から読むと理解が深まります。宇宙ビジネス全体の動向は宇宙ビジネスの基本や2026年の宇宙経済でも扱っています。
参考資料・出典
- NASA Sees Progress on Blue Origin's Orbital Reef Design DevelopmentNASA公式:Orbital Reefの設計進捗に関する発表
- SpaceX scores $843M NASA contract to deorbit ISS in 2030TechCrunch:SpaceXによるISSデオービット契約の報道
- NASA awards Blue Origin, Nanoracks, Northrop Grumman over $400M in contracts to avoid space station gapTechCrunch:商業LEO拠点(CLD)プログラム第一弾の資金提供発表
- Vast Delays Haven-1 Launch to 2027Payload Space:Vast社のHaven-1打ち上げ延期に関する報道
- 三井物産、JAXAから米国商業宇宙ステーション接続型の日本実験棟後継機の概念検討の実施者に選定三井物産公式:「きぼう」後継機の概念検討に関するプレスリリース
- Low-Earth Orbit: NASA Faces Impending Decisions米政府監査院(GAO):ISS引退と商業ステーション移行に関する報告書
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執筆:ゆるふわ宇宙編集部 最終更新日:2026年8月13日
Footnotes
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2021年12月、NASAは商業LEO拠点(Commercial LEO Destinations)プログラムの資金提供先として、Blue Origin(Orbital Reef)・Nanoracks(現Starlab)・Northrop Grummanの3社を選定しました。 ↩
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2024年6月、NASAはISSを安全にデオービットさせるための専用宇宙船の開発契約をSpaceXと締結しました。契約額は約8.4億ドルです。 ↩
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米政府監査院(GAO)は2026年の報告書で、ISS引退までに民間宇宙ステーションの準備が間に合わない可能性や、それに伴う地球低軌道での有人活動の空白期間リスクを指摘しています。 ↩
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JAXAは2023年、米国商業宇宙ステーションに接続する日本実験棟「きぼう」後継機の概念検討の実施者として三井物産を選定しました。 ↩