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月着陸ベンチャーispaceの新型機「ULTRA」とは|2度の失敗から挑む2028年の"純国産"月面着陸

2026-10-01 ・ 入門

#ispace#月着陸#ULTRA#HAKUTO-R#宇宙ビジネス

日本の宇宙ベンチャーispaceは、民間企業として世界で初めての月面着陸をめざし、これまでに2度挑戦してきました。しかし2023年のMission 1、2025年のMission 2「RESILIENCE」と、いずれも着陸の最終局面で機体を失っています。それでもispaceは後ろを向かず、2026年に入って新型着陸機「ULTRA」を軸にした巻き返し策を打ち出しました。何が起きて、次はどう変わるのか。2028年に向けた現在地を整理します。

この記事で分かること

  • ispaceは日本の月面着陸ベンチャーで、2023年のMission 1、2025年のMission 2「RESILIENCE」と2度連続で月面着陸に失敗している
  • Mission 2の失敗原因は、着陸直前に月面までの距離を測るレーザー高度計(LRF)の計測遅れ。通信が途絶した高度193mの時点で降下速度は秒速42m(時速約150km)に達しており、減速が間に合わないまま月面に衝突したとispace自身が技術的原因分析で公表した
  • 2026年3月、ispaceは単発ミッションの積み重ねから「月への高頻度な定期輸送インフラ」づくりへ戦略を転換し、日米の着陸機設計を統合した新型機「ULTRA」(乾燥質量約1,000kg、最大ペイロード数百kg)を発表した
  • 2028年に予定するMission 3では新型機ULTRAをJAXA・三菱重工のH3ロケットで打ち上げる計画。実現すれば「国産ランダー×国産ロケット」による初の月面着陸となり、開発費の一部は経済産業省のSBIR制度でも支援されている

対象読者:日本の宇宙ビジネス・月面探査の動向に関心のある方

執筆:ゆるふわ宇宙編集部 最終更新日:2026年10月1日

ispaceとは:HAKUTO-Rに挑む日本の月着陸ベンチャー

HAKUTO-R(はくとあーる)

ispaceが手がける、民間企業による月面探査プログラムの名称です。「HAKUTO」は、かつて月面探査レースだったGoogle Lunar XPRIZEに参加していた日本のチーム名に由来し、「R」はそれを引き継ぐ(Reboot)という意味が込められています。ispaceはこのプログラムのもとで独自開発の月着陸船(ランダー)を打ち上げ、顧客の荷物を月面まで運ぶ商業輸送サービスの実現をめざしています。

ispaceはこれまで2度、自社開発のランダーで月面着陸に挑戦し、どちらも着陸の最終局面で機体を失いました。ただし原因はまったく別物です。1度目はソフトウェアの判断ミス、2度目はセンサーの計測遅れという、異なる壁にそれぞれぶつかっています。

2度の着陸失敗——原因はまったく違った

🖥️

Mission 1(2023年4月)

  • 原因はソフトウェア
  • クレーター縁で高度の見積もりが狂う
  • 正常なセンサー値を「故障」と誤判定して棄却
  • 燃料切れとなり月面に激突
VS
📡

Mission 2「RESILIENCE」(2025年6月)

  • 原因はハードウェア
  • レーザー高度計(LRF)の計測が遅延
  • 本来の計画より減速が遅れる
  • 時速50kmを超える速度で月面に衝突

Mission 1(2023年4月着陸試み)は、周囲より数km高いクレーターの縁を飛び越えた際に、ソフトウェアが自機の高度の見積もりを見失いました。センサーが返していた値は実際には正しかったにもかかわらず、ソフトウェアはこれを「故障」と誤判定して棄却。本来よりもはるかに低い高度にいると誤認したまま降下を続け、燃料を使い果たして月面に激突しました。

Mission 2「RESILIENCE」(2025年6月着陸試み)は、米Firefly Aerospaceの「Blue Ghost」と同じSpaceXファルコン9で2025年1月15日に打ち上げられ、民間の月着陸機2機が同時に打ち上がる初めての事例として注目を集めました。しかし約5カ月の航行を経た着陸本番では、着陸直前に別の壁にぶつかります。

💥

2023年4月

Mission 1が着陸に失敗。原因はソフトウェアによる高度の誤判定

💥

2025年6月

Mission 2「RESILIENCE」が着陸に失敗。原因はレーザー高度計の計測遅れ

🚀

2028年

Mission 3で新型機「ULTRA」とH3ロケットに挑戦する計画

Mission 2「RESILIENCE」――高度193mで何が起きたか

⚠️

レーザー高度計の計測が「遅れた」

ispaceが公表した技術的原因分析によると、着陸直前に月面までの距離を測るレーザー高度計(LRF)の測定値が、想定より遅れて届いていました。月面の反射率の低さ、機器の経年劣化、降下速度の速さなどが複合した可能性があるとされています1。この遅れにより、ランダーは本来の計画より減速が遅れたまま降下を続け、通信が途絶した高度193mの時点ではすでに秒速42m(時速約150km)という速い降下速度に達していました。最終的に月面には時速50kmを超える速度で衝突したと推定されています1。

Mission 1の原因がソフトウェアの「判断」の問題だったのに対し、Mission 2は着陸の根幹を支えるセンサーという「ハードウェア」の問題でした。2度とも最後の降下フェーズという、最も難しい局面で機体を失っている点は共通しています。なお、RESILIENCEにはルクセンブルクのispace-EUROPEが開発した超小型月面ローバー「TENACIOUS」も搭載されており、ランダーと運命をともにしました。

💡

関連記事もあわせて

月をめざす国際プロジェクト全体の動きは月・火星をめざす(アルテミス計画)、月面着陸に使われるロケットの打ち上げの流れはロケット打上げの流れの記事で扱っています。

戦略転換:単発ミッションから"月の定期輸送"へ

2度の失敗を経て、ispaceは2026年3月に開いた事業戦略アップデートで、大きな方針転換を打ち出しました。単発のミッションを一つずつ積み上げる路線から、月への「高頻度な定期輸送インフラ」を築く路線へと軸足を移すというものです2。その柱となるのが、日本とアメリカそれぞれの子会社が個別に進めていたランダー設計を一本化した新型機「ULTRA」です。

📏

約3.6m

着陸脚を展開した状態のULTRAの全高

⚖️

約1,000kg

燃料を除いた機体そのものの乾燥質量

📦

最大200kg

Mission 3で月面に届ける予定のペイロード重量

ULTRAは、日本側とアメリカ側で別々に育ててきた設計を統合することで、開発リソースを一本化し、同じ機体をMission 3(2028年)、Mission 4(2029年)、Mission 5(2030年)と繰り返し使っていく計画です2。1機ごとに設計を作り直すのではなく、同じプラットフォームを量産的に飛ばすことでコストと開発期間を圧縮し、"月の定期便"に近づけようという狙いが読み取れます。

🌱

「国産ランダー×国産ロケット」という挑戦

2026年7月、ispaceはMission 3の打ち上げにJAXA・三菱重工業の新型基幹ロケット「H3」を採用すると発表しました3。これまでの2回はいずれも米SpaceXのファルコン9で打ち上げられており、実現すれば日本製のランダーを日本製のロケットで月へ送る初めての事例になります。H3ロケット自体の歩みは日本の宇宙開発|JAXA・H3ロケットとベンチャーの記事で詳しく解説しています。Mission 3の開発費の一部には、経済産業省のSBIR(中小企業技術革新制度)による支援も充てられています2。

課題:信頼回復と資金調達の両立

⚠️

「3度目」で結果を出せるか

ispaceはこれまで、ミッションの節目ごとに増資を重ねて開発資金をまかなってきました。2度続けて着陸に失敗したことは、技術的な学びをもたらした一方で、投資家や顧客に対する信頼回復という宿題も残しています。同じ時期にFirefly Aerospaceの「Blue Ghost」が2025年3月に民間初の完全な月面着陸を成功させるなど、競合の実績が積み上がっているなかで、Mission 3は技術面だけでなく、事業としての信頼を取り戻せるかを占う重要な一戦になります。

まとめ

  • ispaceは日本の月面着陸ベンチャーで、2023年のMission 1、2025年のMission 2「RESILIENCE」と2度連続で月面着陸に失敗している
  • Mission 1の原因はソフトウェアによる高度の誤判定、Mission 2の原因はレーザー高度計(LRF)の計測遅れと、原因はまったく異なる
  • 2026年3月、ispaceは単発ミッションから「月への高頻度な定期輸送インフラ」へ戦略を転換し、日米の設計を統合した新型機「ULTRA」を発表した
  • 2028年のMission 3はJAXA・三菱重工のH3ロケットで打ち上げる計画で、実現すれば国産ランダー×国産ロケットによる初の月面着陸となる

もう少し詳しく(背景)

ispaceが2度の失敗にもかかわらず事業を続けられている背景には、月面輸送というビジネスそのものが、まだ「誰も確立していない市場」であるという事情があります。NASAの商業月面輸送サービス(CLPS)のように、政府が民間企業の着陸機に荷物を乗せて送り出す枠組みが各国で整いつつあり、着陸さえ成功させられれば、科学機器や通信インフラなど月面に荷物を届けたい顧客の需要は今後も見込まれています。だからこそispaceは、1機ごとに設計を作り直すリスクの高いやり方ではなく、ULTRAという共通プラットフォームを複数回使い回すことで、失敗からの学びを次の機体にそのまま反映しやすい体制に切り替えたと見ることができます。

もう一つ重要なのが、Mission 3で初めて採用されるH3ロケットとの組み合わせです。日本にはこれまで、自国のランダーを自国のロケットで月に送った実績がありません。H3ロケット自体は2026年に主力機としての打ち上げ実績を積み上げている最中であり、ispaceのランダーとの組み合わせが実現すれば、日本の宇宙産業にとって技術的にも象徴的にも大きな意味を持つ挑戦になります。宇宙ビジネス全体の広がりは宇宙ビジネスの今|4,700億ドル市場とNewSpace、日本の宇宙開発全体の動きは日本の宇宙開発|JAXA・H3ロケットとベンチャーの記事もあわせてご覧ください。

参考資料・出典

ゆるふわポータルでは、一次情報・公的資料にもとづき、専門用語をできるだけやさしく翻訳することを心がけています。内容に誤りや古い情報がある場合は、お問い合わせからご連絡ください。

執筆:ゆるふわ宇宙編集部 最終更新日:2026年10月1日

Footnotes

  1. ispace公式「HAKUTO-R ミッション2 技術的原因分析の結果について」(2025年6月24日発表)による。Mission 2「RESILIENCE」は着陸直前、月面までの距離を測るレーザー高度計(LRF)の測定値が遅延。月面の反射率の低さ、機器の経年劣化、降下速度の速さなどが複合した可能性があるとされ、高度193mの時点で秒速42mの降下速度が確認されたのち通信が途絶え、減速が間に合わないまま月面に衝突したと推定されている。 ↩ ↩2

  2. ispace公式の事業戦略アップデート(2026年3月27日)、および「国内一部報道に関する声明」(2026年3月30日)による。単発ミッションの積み重ねから高頻度な輸送インフラづくりへの転換、新型ランダー「ULTRA」の仕様(日米の設計統合、全高約3.6m、乾燥質量約1,000kg、Mission 3でのペイロード最大200kg)、Mission 3(2028年)からMission 5(2030年)までの計画、経済産業省SBIRによる開発費支援が示されている。 ↩ ↩2 ↩3

  3. 財経新聞の報道(2026年7月30日)による。ispaceはMission 3の打ち上げにJAXA・三菱重工業のH3ロケットを採用すると発表し、実現すれば国産ランダーと国産ロケットの組み合わせによる初の月面着陸になるとしている。 ↩

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