
宇宙太陽光発電(SBSP)とは|Meta向け1GW契約とNASA試算の20倍ギャップ
2026-09-04 ・ 入門
太陽光発電の弱点は「夜は発電できない」「天候に左右される」ことです。この弱点を、太陽が沈まない軌道上で発電し、電気を無線で地上に届けることで乗り越えようとする構想が「宇宙太陽光発電(SBSP)」です。1968年の提唱から半世紀以上ほぼ研究段階にとどまっていたこの構想が、2026年に入り米新興企業の商用契約という形で急速に動き出しました。何が実証済みで、何がまだ賭けなのかを整理します。
この記事で分かること
- 宇宙太陽光発電(SBSP)は、軌道上の衛星で太陽光発電を行い、マイクロ波やレーザーで電力を地上に無線送電する構想。太陽同期軌道などを使えば夜間・悪天候の影響をほぼ受けずに発電を続けられる
- 2026年4月、米新興3社(Virtus Solis・Overview Energy・Reach Power)がイベント『Energy from Space』で相次いで商用フェーズへの進展を発表。OverviewはMetaと最大1GWの容量予約契約を締結し、2028年軌道上実証・2030年商用供給を計画している
- NASAの独立試算(2024年1月)では、発電コスト(LCOE)が前提条件次第で0.61〜1.59ドル/kWhから0.03〜0.08ドル/kWhまで約20倍も変動する。業界が掲げる50〜100ドル/MWhという目標は、NASAが示す『6条件がすべて揃った最良ケース』とほぼ同水準
- 日本ではJAXAが実現目標を『21世紀後半以降』に後退させる一方、経産省傘下のJSSが2026年度中に地上受電設備の実証を計画。実証衛星『OHISAMA』も同年度中の打ち上げを予定するが、搭載予定の小型ロケット『カイロス』は2026年3月時点で3機連続の打ち上げ失敗が続いている
対象読者:宇宙ビジネス・エネルギー戦略・AIインフラ投資に関心のある方
執筆:ゆるふわ宇宙編集部 最終更新日:2026年9月4日
宇宙太陽光発電(SBSP)とは:夜のない発電所
宇宙太陽光発電(SBSP)(うちゅうたいようこうはつでん)
Space-Based Solar Powerの略。地球の周回軌道上に太陽電池パネルを広げた衛星を配置して発電し、その電力をマイクロ波またはレーザーに変換して地上の受電施設まで無線で送る構想です。地球の影に入りにくい軌道を選べば、大気や雲、夜間の影響をほとんど受けずに太陽光をほぼ連続して受け続けられる点が、地上の太陽光発電にはない優位性とされています。
地上の受電側では「レクテナ」と呼ばれるマイクロ波受電アンテナを広い敷地に敷き詰め、受けた電波を電力に変換して送電網に流し込みます。この受電設備の規模は数キロ四方に及ぶとされ、同規模の地上太陽光発電所と比べても遜色ない土地が必要になる点は見落とされがちなコストです1。
太陽が主要なエネルギー源として送電網の外側から常時利用できるという発想は、電力需要が急増するAI関連インフラとも接点があります。地上の電力網の逼迫という同じ課題に、衛星でGPU・TPUを稼働させて対応しようとする構想については軌道上データセンターとはの記事でも扱っています。
2026年4月、3社が商用フェーズへ動いた
2026年4月21日、サンフランシスコで開催されたイベント「Energy from Space」(SF Climate Week 2026の一環)で、米新興3社が異なる進捗を明らかにしました。
Virtus Solis / Overview Energy
- 軌道上での発電・無線送電を目指す『本命』のSBSP構想
- Virtus SolisはCEO自ら500MW規模の契約条件に署名したと発言
- Overview EnergyはMetaと最大1GWの容量予約契約を締結(2026年4月27日発表)
- 軌道上実証は2028年、商用供給開始は2030年を計画
Reach Power
- 地上向けの無線送電システムはすでに稼働中
- 国防総省がロボティクス・遠隔操作向けの実際の顧客
- 軌道上SBSPとしては2027年にNASAとの中継機打ち上げを計画
- 商業供給契約はまだ結んでおらず、他2社より一歩手前の段階
500MW
Virtus SolisのCEOが契約条件への署名を明らかにした初回展開契約の規模
最大1GW
Overview EnergyがMetaと締結した容量予約契約の規模(早期アクセス権。最終供給契約ではない)
2028年
Overview Energyが計画する軌道上実証の時期(商用供給は2030年)
24カ月以内
Virtus Solisが目標とするパイロット運用開始までの期間
契約の『重さ』は一様ではない
最も具体的な公式発表はOverview EnergyとMetaの容量予約契約ですが、これも早期アクセス権を与えるもので最終的な電力供給契約ではないと説明されています。Virtus Solisは契約条件への署名、Reach Powerは地上技術の商用化がそれぞれ先行しており、3社の進捗は同じ土俵にあるわけではありません1。
Overview EnergyのCCO Abdullah Al-Shakarchi氏は、SBSPならではの強みをこう説明しています。「宇宙太陽光発電の真の力は、地理的に送電先を切り替えられる点にある。1基の衛星がサンフランシスコ、サンティアゴ、スペイン、テキサスへ動的に送電できる」。地上の送電網が混雑・被災していても、同じ衛星から別の受電拠点へ振り向けられるという、地上に固定された発電所にはない柔軟性です1。同社は2025年11月、高度5,000mを飛行するセスナ機からレーザーで地上へ送電する実証にも成功しており、移動する送信源からの送電技術を実機で確認した数少ない事例になっています。
NASAの試算:前提次第で20倍のギャップ
契約の勢いとは裏腹に、コストの実態を示す数字は業界とNASAとでまったく異なります。業界が掲げるLCOE(均等化発電原価、発電コストを1kWhあたりに換算した指標)の目標は50〜100ドル/MWh水準ですが、NASA技術・政策・戦略室(OTPS)が2024年1月にまとめた独立試算は、前提条件によって驚くほど幅のある結果を示しています1。
NASA試算:3段階のシナリオ
基準シナリオ
現行技術の延長線上:LCOE 0.61〜1.59ドル/kWh(610〜1,590ドル/MWh)
感応度分析
打ち上げコスト等を1つずつ改善:0.20〜0.50ドル/kWh(200〜500ドル/MWh)
複合シナリオ(6条件達成)
打ち上げ1回5000万ドル・太陽電池効率50%等が全て揃えば:0.03〜0.08ドル/kWh(30〜80ドル/MWh)
同じ設計内で基準シナリオと複合シナリオを比べると、約20倍の開きがあります。業界が語る50〜100ドル/MWhという目標に最も近いのは、この複合シナリオの30〜80ドル/MWhです。つまり業界目標は、NASAが夢物語と切り捨てている数字ではなく、NASA自身が「6条件がすべて揃えば」という留保つきで認める最良ケースに位置しています1。
最良ケースでも地上の再エネに勝てるとは限らない
NASA報告書は比較対象として、NRELが予測する2050年時点の地上再生可能エネルギー(地熱・水力・蓄電付き太陽光・陸上風力)および原子力のLCOE、20〜50ドル/MWhも示しています。SBSPの複合シナリオ(30〜80ドル/MWh)が実現しても、この水準より安くなるとは限りません1。
送電効率についても、NASAは衛星から地上受電設備までの区間で「アンテナ放射90%×大気透過98%×ビーム捕捉95%」=約84%という数値を示しています。Virtus SolisのCEOが語った「送電効率85%」はこの区間を指す主張とみられ、NASAの前提とほぼ同水準です。ただし衛星内部のDC-RF変換(NASA前提で70%)まで含めた総合効率は別の数字になり、この主張を裏付ける独立検証は今のところ存在しません1。
なぜ「今」なのか:半世紀止まっていた理由
宇宙太陽光発電の構想自体は新しくありません。航空宇宙工学者Peter Glaserが1968年に科学誌Scienceで提唱し、1970年代にはNASAとエネルギー省が実現可能性を検討しました。当時の試算では、経済的に成立するには打ち上げコストを1kgあたり50ドル未満に抑える必要があるとされましたが、前提としていた専用の大型使い捨てロケットは結局建造されず、比較対象だったスペースシャトル利用時の打ち上げコスト(1kgあたり850ドル)との間には17〜28倍もの開きがありました。専用ロケットが実現しないまま、構想は半世紀近く研究レベルにとどまったのです1。
潮目が変わったのは2023年、Caltechの軌道上実証機「SSPD-1」がマイクロ波の軌道上送電(MAPLEペイロード)に世界で初めて成功したときです。太陽電池の性能評価(ALBAペイロード)とは別々の実証で、電力はホスト衛星から供給されており、発電から送電までを一体化した実証ではありません。展開機構の一部に不具合も生じましたが、この実証から3年足らずで米新興3社が同時に契約や実証計画を語る段階まで進んだことになります1。この間の最大の推進力は、再使用ロケットの実用化による打ち上げコストの継続的な低下です。
日本の動き:OHISAMA衛星とJAXAの目標後退
日本でも官民が動いています。経済産業省の支援を受ける一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構(JSS)は、2026年度中に地上受電設備の実証を計画しており、世界初の実証を目指すとしています1。
これと並行して、JAXAが主導する実証衛星「OHISAMA」の打ち上げも2026年度中に予定されています。重量150kgの小型衛星に、軽量な展開型メンブレン(膜面)構造のレクテナを搭載し、宇宙から地上への無線送受電の実証としては世界初を目指す計画です2。
打ち上げ予定ロケットの実績はまだ安定していない
OHISAMAは民間の小型ロケット「カイロス」での打ち上げが計画されていますが、カイロスは2024年3月の1号機、同年12月の2号機に続き、2026年3月5日の3号機も打ち上げ68.8秒後に飛行中断となり、2026年3月時点で3機連続の軌道投入失敗が続いています3。OHISAMAの打ち上げ時期や実現可否は、この打ち上げ手段の信頼性回復にも左右される状況です。
日本の目標設定は一枚岩ではありません。三菱重工業は2011年の技報で、火力発電所1基分に相当する400MW級システムの2030年頃の商用運用という目標を示していましたが、これは15年前の文書で現行のロードマップかは確認できません。JAXAはかつて1GW級システムを2030年代に実現し、供給コストを1kWhあたり8円とする試算を示していましたが、現在は実現目標を「21世紀後半以降」に後退させ、コスト試算自体は行っていないと説明しています1。米新興企業が契約という形で前のめりに進む一方、日本の公的機関は見通しをむしろ慎重な方向に修正してきたという対照的な状況です。
関連記事もあわせて
軌道上でのエネルギー利用というより広い文脈は軌道上データセンターとは、太陽活動が衛星に与える別のリスクは宇宙天気(スペースウェザー)とはの記事で扱っています。
まとめ
- 宇宙太陽光発電(SBSP)は軌道上で発電し、マイクロ波やレーザーで地上に無線送電する構想で、太陽同期軌道などを使えば夜間・悪天候の影響をほぼ受けずに発電できる
- 2026年4月、Virtus Solis・Overview Energy・Reach Powerの米新興3社が商用フェーズへの進展を発表。OverviewはMetaと最大1GWの容量予約契約を締結し、2028年軌道上実証・2030年商用供給を計画している
- NASAの独立試算ではLCOEが前提次第で約20倍変動し、業界目標(50〜100ドル/MWh)はNASAが示す「6条件がすべて揃った最良ケース」(30〜80ドル/MWh)とほぼ同水準にある
- 1968年の提唱から半世紀、専用ロケットが実現せず構想は停滞していたが、2023年のCaltech実証と再使用ロケットによる打ち上げコスト低下が潮目を変えた
- 日本ではJAXAが目標を「21世紀後半以降」に後退させる一方、JSSが2026年度中の地上受電実証を計画し、実証衛星OHISAMAも同年度中の打ち上げを予定するが、搭載予定のカイロスロケットは2026年3月時点で3連続失敗中
もう少し詳しく(背景)
宇宙太陽光発電をめぐる議論で見落とされがちなのが、「打ち上げコストが下がれば自動的に成立する」わけではないという点です。NASAの複合シナリオは、打ち上げコストの低下だけでなく、太陽電池効率50%への向上、サービス機・デブリ除去機の低価格化、量産による学習曲線改善、機器寿命15年、電気推進による軌道移動という合計6つの条件が同時に揃うことを前提にしています。どれか1つでも未達成なら、業界目標の水準には届きません。
もう一つの論点は、契約の「発表」と「実証データ」の間にあるタイムラグです。500MWや1GWという契約の数字自体は具体的ですが、その単価がNASAの複合シナリオ(30〜80ドル/MWh)に近いのか、基準シナリオ(610〜1,590ドル/MWh)に近いのかは公表されていません。Overview Energyが2028年に予定する軌道上実証、Reach Powerが2027年に計画するNASAとの中継機打ち上げ、そしてJSSが2026年度に計画する地上受電実証は、いずれも送電効率という同じ論点を検証する機会になります。日本の宇宙ビジネス関係者にとって重要なのは、実現時期そのものを先読みすることよりも、これらの実証がどのフェーズにあるかを見極めながら、部品供給や地上受電設備の建設・保守といった自社が関われる領域を探ることだといえるでしょう。
参考資料・出典
- 2027年と2028年、宇宙太陽光発電の実証が待ったなしの正念場に | XenoSpectrumXenoSpectrum|SBSP企業3社の発表とNASA試算の詳細な分析
- NASA OTPS SBSP Strategic Assessment Report (2024)NASA公式|LCOE試算の一次資料
- Overview and Meta | Overview EnergyOverview Energy公式|Metaとの容量予約契約発表
- 【日本の宇宙太陽光発電衛星「OHISAMA」】2026年度にカイロスロケットで打ち上げへ | Yahoo!ニューススペースチャンネル|OHISAMA衛星の計画概要
- 【2026年3月6日最新】カイロスロケットの全貌|スペースワン3号機失敗で3連敗カイロスロケットの打ち上げ失敗の経緯まとめ
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執筆:ゆるふわ宇宙編集部 最終更新日:2026年9月4日
Footnotes
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XenoSpectrum「2027年と2028年、宇宙太陽光発電の実証が待ったなしの正念場に」(2026年7月10日)による。SF Climate Week 2026でのVirtus Solis・Overview Energy・Reach Powerの発表内容、NASA OTPS「SBSP戦略報告書」(2024年1月)のLCOE試算(基準シナリオ0.61〜1.59ドル/kWh、感応度分析0.20〜0.50ドル/kWh、複合シナリオ0.03〜0.08ドル/kWh)、送電効率の内訳、1970年代の打ち上げコスト試算、Caltech SSPD-1(2023年)の実証範囲、日本のJSS・三菱重工・JAXAの目標設定の推移を引用。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11
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JAXA宇宙科学研究所およびJSS(宇宙システム開発利用推進機構)の資料、複数の報道による。実証衛星「OHISAMA」は重量150kgの小型衛星で、軽量展開型メンブレン構造のレクテナを搭載し、2026年度中に打ち上げ予定。地上での受電・出力に成功すれば世界初となるとされる。 ↩
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スペースワンの小型ロケット「カイロス」は、2024年3月の1号機、同年12月の2号機に続き、2026年3月5日の3号機も打ち上げ後68.8秒で自律飛行安全システムにより飛行中断となり、2026年3月時点で3機連続の軌道投入失敗となっている。 ↩